離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「待たせてごめん」

 高城は、わずかに息を切らしながら開口一番に言う。よほど急いできたのか、街灯の光に照らされた男の額にはじんわりと汗が滲んでいた。

 カフェの前の道路は駐車禁止になっている。高城もどこかに車を停めてからここへ来たのだろう。

「いえ、私も片付けに時間がかかってさっき出たところだったので。悠人さん、走ってきてくれたんですか?」

 別に時間を決めたわけでもなかったのに。そう思いつつ私が「汗を拭かないと」とハンカチを差し出すと、高城は両手でハンカチごと私の手を包んだ。

「君は、外で待ってくれている気がしたから」

 高城が、緩やかに両方の口角を上げて微笑む。

 だからわざわざ走ってきたって言うの? 仕事終わりに、こんなふうに汗まで流して。
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