離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 この男に誠実な対応をされるたびに私は父の顔が頭に浮かび、ときどきぶつけどころのない思いにとらわれそうになる。

 苛立ちの分だけ、この男に好かれようと努力するしかなかった。

「でも、危ないから次からはどこか店に入って待っていてほしい。心配なんだ」

「……わかりました」

 私が言うと、高城はほっとしたように和やかな顔つきになる。

「今日は外で食事をして帰りたいと思って。行こうか」

 高城はそのまま私の右手を取り、歩き出した。ハンカチを握る左手に力が入る。

 シュペリユールの本社もここからそれほど遠くないのに、この男は誰かに見られたらとか考えないのだろうか。

 繋がれている手に視線を落とすと、またしても一週間前の夜の出来事が頭を掠める。途端に恥ずかしくなり、私はうつむきながら足を進めた。

 本気で心配しているような顔をして。あなたの優しさなど私は信じない。

 計画は順調に進んでいるのに、この男の隣にいるといつも焦燥感に苛まれていた。

 私はできるだけ思考を手放し、少し離れた場所にあるコインパーキングに停められていた高城の黒のセダン車に乗り込んだ。
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