離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 慣れない格好をしているせいか、普段足を踏み入れる機会などない高級料亭にいるせいか、気分が落ち着かなかった。

 しばらくして、前菜から吸い物に、刺身など、机の上に会席料理が並べられていく。

 綺麗。

 運ばれてきた料理は、盛りつけや彩りはもちろんのこと、料理を引き立たせる和食器まで美しかった。

 食事には見た目も大事とよく言うけれど、すべてバランスを計算されているのだろう。まるで芸術品のような料理の数々に、手をつけるのがもったいないくらいだった。

 じっと目にしていると、私の頭の奥に仕舞っていた記憶が蘇ってくる。

 父が亡くなるまで、私は父が作った豆腐を使って小料理屋を営むのが夢だった。

 豆腐店の近くに古い建物を借りて、改築も可能な限り自分の手で行う。大きなテーブルがふたつほど、あとはカウンター席があるだけの小さな店で十分だった。
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