離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「泣かせてごめん。ここの料理が好きだから、まつりにも食べさせたかったんだ」

 いつの間にかこちらにやってきていた高城が、「使って」とハンカチを手渡してくる。

 私はそれを受け取り、強く目に押しあてた。ハンカチにじわじわと涙が染み込んでいくのがわかる。

 私が間違うはずない。この豆腐は父が作ったものと同じ味がした。でも、その父はもういない。それなのにどうしてあの味がここに?

 そんな疑問が私の頭をもたげる。混乱して様々な考えが交錯する中、あるひとつの思いが浮かび上がってきた。

 シュペリユールがどこからか父の豆腐のレシピを手に入れたから、用済みになって八年前に突然契約を解消してきたのだとしたら?

 私は、心がざわざわと波立つのを感じる。あれだけコントロールできなかった涙がピタリと止んだ。
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