離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 三代目である父は、先代から受け継いだ豆腐の作り方、豆腐以外の商品のレシピや、先代たちが経験から編みだした工夫などが綴られたノートを持っていた。

 しかし、そのノートは貴重品とともに家に唯一あった小さな金庫に仕舞われていて、父は『中身は頭に入っているから』と滅多にそのノートを金庫から出さなかった。

 娘の私ですら、父がノートを手にしている姿は数回ほどしか記憶にない。

 そして父が亡くなり家を手放した今、ノートは父の形見として私が大切に所有している。状況から考えてもノートの内容が流失したとは考えにくかった。

 だとすると父の味と感じたのは私の思い違いだろうか。シュペリユールがうちと契約を解除したあとに、似た味の豆腐店を探したとか? でも、どうしてわざわざそんなことを。

 私はさらに思案を巡らせる。

 もともと高城の父は父の豆腐の味に惚れ込んでいた。やはりうちの味が恋しくなった可能性も考えられる。

 私は息を呑み、口を開く。
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