これを愛というのなら
久しぶりに厨房に来て。


「蓮にお願いがある!」


厨房のみんなが居るにも関わらず、抱き付いて来て、

見上げて言ってくる梓。


今では社内で俺らの仲は公認になっていて、厨房のみんなに微笑ましく見られてて、それが逆に照れくさくなる。


「お願いって?」


「花嫁さん達の料理教室するのは、知ってるでしょ?」


「知ってるけど。なんかあったのか?」


「うん、予定してた講師さんが、料理教室の当日まで来れなくなって。必要な調理器具とかまだ準備出来てなくて、蓮に手伝ってほしいの」


そんなことなら、いくらでも。


梓の頭を撫でて、そう言うと。

ありがとう、と俺に、また抱き付いてくれるんだけど。

照れくさくて、しょうがねぇんだよ。

視線が。



「今から時間ある?ちょっとだけマリッジに来て、だいたいのリストアップしてほしい」


「ちょっと終わらせたい事があるんだよ。それが終わったら行くから、先に戻っててくれるか?」


離れようともせず、抱き付いたままの梓は見上げたまま。

寂しそうな顔をして、わかった、と俺から離れて。


待ってるからね!


手を振って、厨房を出て行ったあと。


「料理長、顔が赤いですよ。倉本さんにデレデレって感じが滲み出てますよ」


真壁に言われて。


うるせぇ!

見てる暇があるなら仕事しろ!


はいはい、と返しながらニヤニヤしてる真壁。

覚えとけよ!



それから、急いで仕事を終わらせて。

マリッジに向かっって。

ドアが開いていた事務所を覗くと、


「あっ!料理長!」


梓と、ここに配属された鈴木しかいねぇし。

待ってるからねって言ってたくせに。


梓は?


鈴木に訊ねると、社長に呼ばれて本社に行きました。


「料理長が来たら、対応よろしくって行ったので。私じゃ不満だと思いますけど、教室の方へ」


仕方ねぇよな、社長に呼ばれたなら。

それにしても、鈴木!

「何で、この写真をこんな目立つ所に飾ったんだよ?」


教室スペースまで向かうフロア内の、パソコンで検索できる場所に。


俺と梓が、モデルの代役をした時の写真が飾られていた。

洋装でチャペル、お互いの腰に腕を回して、額と額を合わせて笑っている写真。



これ家でよくやってんなぁ。

さっき別れたばっかなのに…会いてぇな。

写真を見ながら、ふと思う。


「最初はね、倉本さんも飾るの嫌だって言ってたんです。でも、社長に押し切られちゃって。だけど今は、料理長と同じ顔して、よく見てますよ」


「俺、今どんな顔してた?」


「寂しい顔。毎日、家で会えるのに…あっちで会えなくなったら寂しいんですか?二人とも、どれだけ好きなんですか?」


呆れ気味に、鈴木に言われて。


相当、好きだな。寂しいもんは寂しい。


「私には、そこらあたりは理解できません!」


「鈴木も、自分の全てをかけて愛してるって言い切れる異性が現れたら、わかるんじゃないか?」


出逢えたらいいんですけどね。


切なそうに言う鈴木に。


出会えるだろ、まだ若いんだから。


頭に手を置いて、伝えてやると。


「そうですね。でも今は、倉本さんみたいになりたいんです」


なんで?


「倉本さんくらい仕事が出来るようになったら、私がここのチーフになるんです。そうしたら、倉本さんも安心して寿退社できるでしょ?」


思わず笑ってしまった。

天真爛漫な鈴木から、そんなことを聞けると思ってなかったから。


なんで笑うんですか?!


膨れっ面の鈴木に。

なんでもねぇよ。ありがとな。

顔を覗き込んで微笑むと。


「料理長の、笑顔は反則です!今、ときめいちゃいました!」


「惚れんなよ?」


冗談ぽく言うと、惚れませんよ。


「尊敬する直属の上司の彼氏を好きになって、辛い思いするのは嫌ですから!」


そうか。


意外と、鈴木ってしっかりしてる。

はっきりと話すし、自分の考えもしっかり言える。

それに、上司思い。

梓は、いい部下を持ったな。
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