これを愛というのなら
「マリッジの料理教室の講師が…早織さんかもしれねぇ」


「早織さんってお前が専門学校ん時の彼女だよな?間違いなく、そん時の彼女だ。副社長が、早織さんと同級生らしくて。直々に頼んだらしい」


副社長って、社長の奥さんか。


「何で言わなかったんだよ?」


「お前に言ったって、決まったもんは代えられないだろ?」


煙草に火をつけた陽介は、吸うか?と俺にも煙草とライターを、箱ごと渡して。


「今、お前には倉本が居るだろ。今さら再会した所で、よりを戻すわけじゃない。堂々としてりゃいいんだよ」


わかってるよ、そんなこと。

でも、梓なら変に、早織さんと話してたら、不安がるだろ。


「俺から声をかける気はねぇけど、梓の前で話し掛けられたら…」


「倉本に、早織さんとの事は話したのか?」


あぁ、と頷くと。

それなら、倉本に早織さんが例の彼女だって言っておけば、倉本も安心だろ。


「…そうだな…」


煙草を灰皿に入れた陽介は、俺を見て。


「今、もし何を言われようと…お前が倉本を大切に想ってる事実は、変わらないだろ?」


倉本といるお前を見てると。


「早織さんの時よりずっと、幸せそうないい顔してるなって思うんだよ。好きで好きでしょうがねぇんだろ?早織さんを好きだった時より、倉本を」


そんな顔してるんだな。

たしかに、幸せで楽しくて、飽きない。


だから、


「そうだな。早織さんに対しては、愛おしいとか守りたいとか。若かったからかもしれねぇけど、思わなかった。梓は、愛おしくて仕方なくて…守りたいって思う」


「だったら、惑わされるな。ただ、お前は優しすぎる。早織さんに何を言われても情はかけるな」


優しすぎるか。

言われたな、梓にも瑠美にも。


「早織さんは、結婚してるんだから。今さら、何か言われることはないと思うけど…」


最後に、倉本は俺の大切な元部下で。


「大切な親友の女だから言っとくが、倉本を泣かせるような事だけはするな」


陽介は、俺の肩を叩いて。

頼むぞ、と。

まだ仕事が残ってる。


階段を降りる陽介に、ありがとな、と言うと。

手を上げて、階段を駆け降りて行った。



その日の夜。

梓に、早織さんの事を話すと。

驚いていたけれど、

蓮を信じてるから大丈夫、と笑顔で言ってくれた。
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