俺のカノジョは


夢も見ずに爆睡していた俺は、


『そんな、いつ言ったらいいのかわかんなくなっちゃったんだよー』
『春香がさっさと言わないからでしょ!』


なにやら声が聞こえて、目を醒ます。


どれくらい眠っていたのかわからないが、俺の彼女は誰かと電話中らしい。

薄目を開けて確認すると、俺の寝ているソファーの前に春香の後ろ姿があった。

風呂に入ったのか、パジャマ姿だ。


テレビもついていない部屋には、電話の声さえ聞こえる。

ボケーッとした頭でその会話を聞いてみた。



『いや、だって過去のことがありまして……』

『それで嫌がるなら、そんな男捨てな』

『そ、そんな……まろちゃんを……イヤだ』

『じゃあ、いますぐ言いなさいよ』

『みーちゃん横暴……』

『あぁ!? 春香が黙ったままだからそんなくよくよ悩んでいるんでしょ! アンタ、いつまで彼氏に隠し通すつもり? 結婚まで? 死ぬまで? アンタの推し、そんな隠し通すほど恥ずかしい存在なの?』

『違います。推しは最高です。至高の存在です!』




お、推し? 
ってなんだ?



『じゃあ、言いなさいよ。今日、居るんでしょ?』

『うん寝てるけど……』

『起きたら言いなさいよ』

『えぇ~どうやって切り出せば……』

『それくらい考えなさいよ、アラサーにもなって!』

『うぅ……ガンバリマス……』

『じゃあね!』



ブチッと勢いよく切れる通話。

なんか、パワフルな電話相手だったな。
友達だろうか。



一気に部屋が静かになる。



「いやでも。まろちゃん……引くと思うんですよぉ……」



通話の切れたスマホに向かってつぶやく背中は、いつもより小さく見えた。







「俺がなにに引くって?」




その背中に投げかけると、バッと振り返り思いっきり





『しまった!』




という顔をする春香。
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