不器用同士


普段、タクシーなんて1人で使うことないから値段の感覚がわからなくてビビってたから助かったけど。


それもわかってたみたいでなんか、悔しい。



「お客さん、着きましたよ」


ゆっくり停止したところは私の家の前だった。


相変わらず真っ暗な我が家には今日もあの人は帰って来ないんだな。


ため息をつきたくなる気持ちを堪えて、タクシーを降りる。


「ありがとうございました」


「いえ、おやすみなさい」


「……おやすみなさい」



おやすみなさいなんて、普段言わないから返すのが遅れた。



タクシーが去って行くのを見届けて、誰もいない家に入った。




「…ただいま」


普段ただいまも言わないくせに、なんとなく言ってみる。


シーンっとした真っ暗な室内から返事は返ってくることはない。



分かりきったことけど、今日相楽くんの家に行ってこういう当たり前の挨拶に憧れてしまった。

< 52 / 89 >

この作品をシェア

pagetop