明日、雪うさぎが泣いたら

「まあ、一彰は、結界やら呪いなんて気分の問題だって自分で言ってるからね。文句は言えないわ」

「……陰陽寮に勤めているというのに、それもどうなのかしら」


要は余ったそれなりの官職が寮に入っているのだと、一彰は人目を憚らず言ってのける。
もちろん、力をもった陰陽師も中にはいるのだろうが、私は一彰の言うことも一理あると思っている。
それを口に出していいものなのかはおいといて。


「効かなかった時の逃げ道を用意しているだけよ。でも、そうとも言えないのが癪なのよね。だって、あの時あいつがいたから、小雪はここにいるのかもしれないもの」


そう、あの時。一彰は私といた。
私自身の記憶は朧なのだが、どこかに消えていた私を見つけ、「こちら」へ必死に連れ戻してくれたらしい。
確かに、私が今無事でここにいられるのは一彰のおかげだ。それに――。


「もう、小雪ったら」


ぐうっとお腹の虫が鳴き、考えを中断させた。
まずは腹ごしらえだ。
腹が減っては、行動できないもの。



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