片思いー終わる日はじめる日ー
もうとっくに面会時間は過ぎていたので、あたしたちは無事に病室におさまった麦の枕元にメモを残して帰ることにした。
タクシーのなかの中井は、もうすっかりいつもの中井。
「いっちに、いっちにって……。一所懸命あの子に歩調をあわせて歩いてたでしょ。うしろから見てて、センセ、かわいくて笑っちゃったぞ」
見てた…のォ?
ううっ。
「今ごろ泣いてるかなぁ。麻酔が切れると地獄の痛みなんだって。ふふ。いっくら強がりでもねぇ、おなか、切っちゃったんだものねぇ」
「…そんなに、痛い、の?」
「うん。それなのに、おトイレなんか、歩いて行かされるんですってよ。あの部屋、トイレ近かったかしら?」
「せんせぇ……」
そんなこわいこと言わないで。
「相田」
はい?
「よろしく頼むね、あの子のこと。わたしはこのあと、父とは話すつもりだけど。…もう、見舞いには行かないから」
「でも……」
「あの子、これで追試決定だし。あの子は生徒として、わたしは教師として。同じ学校にいる間は、それを徹底しなくちゃ」
「…………」
「……ううん。ずっと知らないほうがいいの。あの子は知らないほうがいいのよ。突然、姉弟です…なんて」
ああ……。
きょうだい。
きょうだい?
あたしたちは、たぶんそれぞれに考えなきゃいけないことがありすぎて、そのまま黙って怒の外を流れるライトの列を見ていた。
タクシーのなかの中井は、もうすっかりいつもの中井。
「いっちに、いっちにって……。一所懸命あの子に歩調をあわせて歩いてたでしょ。うしろから見てて、センセ、かわいくて笑っちゃったぞ」
見てた…のォ?
ううっ。
「今ごろ泣いてるかなぁ。麻酔が切れると地獄の痛みなんだって。ふふ。いっくら強がりでもねぇ、おなか、切っちゃったんだものねぇ」
「…そんなに、痛い、の?」
「うん。それなのに、おトイレなんか、歩いて行かされるんですってよ。あの部屋、トイレ近かったかしら?」
「せんせぇ……」
そんなこわいこと言わないで。
「相田」
はい?
「よろしく頼むね、あの子のこと。わたしはこのあと、父とは話すつもりだけど。…もう、見舞いには行かないから」
「でも……」
「あの子、これで追試決定だし。あの子は生徒として、わたしは教師として。同じ学校にいる間は、それを徹底しなくちゃ」
「…………」
「……ううん。ずっと知らないほうがいいの。あの子は知らないほうがいいのよ。突然、姉弟です…なんて」
ああ……。
きょうだい。
きょうだい?
あたしたちは、たぶんそれぞれに考えなきゃいけないことがありすぎて、そのまま黙って怒の外を流れるライトの列を見ていた。