片思いー終わる日はじめる日ー

「いろいろごめんね、相田(あいだ)
 タクシーが家に近づくと、中井がぽつんと言った。
「あなたは(ばく)の好きな子だから……なんとなく、わたしも甘えちゃったね」
 あたしが、麦…の?
 やめて!
「そんなことな…」
「姉の目を信じなさい。――もっとも、今日だけの、姉、だけどね」
 中井の目は、窓の外になにを見ているんだろう。
 ちがう!
 ちがうのに。
 麦は中井が好きなのに。

 タクシーが家の門の前に止まると、母さんがとびだしてきて。
「あら、あんただったの。あたしったら、パパがまた酔っぱらってタクシーで乗りつけたかと思って。ほら、おサイフ持ってきちゃった」とか大声で言ってくれちゃって。
 中井に気がついて、きゅうによそゆきの声になっても遅いの、ばか。

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