片思いー終わる日はじめる日ー
麦は筆を洗ってる。
とても、とても、大切そうなそのやわらかな動作に、ため息だ。
へたっぴのくせに、道具の扱いは雑。
そんなあたしじゃ、ばかにされて当然。
あたしだってバレーボールを蹴るやつと友だちにはなれないもんね。
「ありがとう。勉強になる」
「――ん? なんで現在進行形?」
はは。
そうだね。
「数学を教えてもらったこともだけど――。道具の扱いかたとか見せてもらって……。うん。ありがとね」
「――――ああ」
窓からの風で、テレピンの匂いが美術室の中に広がっていく。
「こういうにおい、だめなやつもいるけど。相田は平気?」
「うん。…麦の白衣も、だんだん、おもしろい」
「ははは」
声をあげて笑った麦はポケットに入れた手で中井みたいに白衣をはたはたさせた。
「油彩って、キャンバスの上で絵の具をまぜちゃだめなんだよ。色が濁っちゃうからさ」
そうなんだ。
「だから同じ筆で続けたいけど、絵の具をこねたくないときに、無意識に拭いちゃうんだな、ここで」
白衣がまた、はたはた揺れる。
「ひと筆、ひと筆、真剣勝負なんだね」
「…………」
「…………」
「…………」
やだ。
なんで、黙るのよう。
見るのもやめて!
ひとの顔をじっと見るなって言ったの、そっちじゃん。