片思いー終わる日はじめる日ー
 入学式の日以来、久しぶりに見るスーツ姿の中井は、クリーム色のジャケットの肩にふわふわとウエーブのかかった髪を広げて、とてもきれい。
「すみません、今、帰るところです」
「ああ。赤根(あかね)と……相田(あいだ)か! 明日から試験なのに、大丈夫なのかな?」
 (ばく)が廊下に出て美術室の電気を消すのを見届けて、中井がいたずらっぽく笑う。
 室内の灯りがもれていた廊下が突然、窓から差す月明かりだけの薄暗さになって。
 見慣れた場所が、まるで知らないところのよう。
「……おぉ、ばぁ、けぇ」
「ひゃあっっ!」
 びくびくしているところを中井にからかわれて。
 思うつぼですがりついたあたしに、中井がくすくすと笑う。
「冗談でーす」
「んもう! センセ!」
 中井からは、いつもの絵の具や油の匂いじゃない、とっても甘いオトナの女のひとの匂いがした。


 本校舎の生徒玄関までもどって出たあたしたちを、校門で待っていてくれた中井と、駅までの道を3人で歩いた。
 ときどき、歩けないほど笑いこけながら。
 駅前で手を振って別れて。
 初めて経験する帰宅ラッシュの電車で人波にもまれながら、あたしはふと気がついた。
 しゃべっていたのは、あたしと中井。
 あたしと麦。
 中井と麦は――?
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