片思いー終わる日はじめる日ー
 はぁ…。
「なーに、ため息ついちゃってんのよ。幸せが逃げるよ」
 井森だ。
 石川とすれちがうように、こっちに歩いてきているのは気づいていた。
 でも、自慢されることはわかっていたから話しかけてほしくなかったのにな。
「おたくのバクちゃん、やるじゃん」
 そうだね、1番だ。
 でもさ。
「そういうことは、今度の球技大会で恥をかかずにすんだら、言ってあげなよ。こんな張り紙より、よっぽど目立っちゃうでしょ」
「そだね」
「…………」
 井森が素直にうなずくのは、今あたしに言わせたいことはちがうから。
「すごいね、井森。スコート、まじ似あってる」
「んま! 気づいちゃった?」
 うれしそうにくるっと1回転。
 気づかないおばかちゃんがどこにいるのよ。

 白いスコートにあこがれて硬式テニス部に入部すると言った井森は、1年生は明けても暮れても緑のジャージィで球ひろいだということを知らなかった。
 中学時代は部活まで手が回らなかったと笑っていたから、井森だって相当がんばって勉強していたんだと思う。
 とりあえず中学生のころは。
 今は、たぶん、同じくらい真剣な気持ちで、いかに高校生活を楽しむかに全力なんだろう。
 それならそれで、エールを送らないとね。
< 61 / 173 >

この作品をシェア

pagetop