夢みたもの
ピアノを弾いていた彼は、驚いた表情で手を止めた。


「・・・帰ってきたの?」


懐かしさと、嬉しさと・・・戸惑いを感じながら、あたしはポツリと呟いた。


「お帰りなさい・・・ユーリ・・」


彼は慌てた様子であたしの処に来ると、床に片膝を着いてあたしを心配そうに覗き込む。



『大丈夫?』



そう無言で問い掛けながら、彼の細くて繊細な手が、膝の上で握り締めたあたしの手を包み込む。

その手の温かさに、あたしは胸が熱くなるのを感じた。



「・・・会いたかった」



潤んだ視界の中に見える少年。



あの頃。

くるんとカールした、金髪に見えるぐらい淡い色の髪をした少年は、あたしにとって、絵本から出てきた天使だった。



あたしを救ってくれる。

幸せに導いてくれる天使。



事実。

一緒に過ごした期間、あたしは幸せだった。


だから、その幸せを失った時。

その事実を受け入れられなかったあたしは、記憶を心に閉じ込めてしまった。


幸せだった分、失った後が怖かった。



そう。

それは・・・遠い過去の幸せだった時の記憶。



思い出した。


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