夢みたもの
『うらやましい』


その言葉は禁句だった。



自分には、家族と呼べるものが無い事は、物心ついた時から知っている。

いまさら何を傷付いているんだろう・・・

他人と自分の違いを感じて胸が痛む時、あたしはいつも、自分にそう言い聞かせた。



抱き締めたウサギのぬいぐるみは、あたしが施設の前に置き去りにされた時、手にしていた物。

辛い事がある度に抱きしめて、涙を拭ってくれたぬいぐるみは、もうずいぶん汚れてしまったけれど、施設から逃げ出す時には必ず一緒に持ってくる。


そして、ポケットにしまった1通の手紙。


何度も読んで貰って、書かれた言葉は一言一句覚えている。

何度も何度も、指で文字をなぞってボロボロになった手紙。



ぬいぐるみと手紙は、あたしの宝物。

あたしと、あたしを産んだ親を繋ぐもの。




流れるように聞こえてくるピアノの音は、弾むように軽やかで、穢れ1つなくて・・・綺麗だった。

聴いていると、自分との違いを思い知って虚しくなる。



ここは、あたしが居て良い場所じゃない。



居たたまれなくなったあたしは、顔を伏せたまま立ち上がり、そのまま数歩後退りした。



その時。



「どこの迷い子かな?」



背後から低い声が聞こえて、あたしの両肩に勢いよく手が乗せられた。


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