夢みたもの
「だから言ったのよ?いきなりフランツが話しかけたりしたら驚くじゃないの」


「詩織」と呼ばれて、苦笑しながら近付いてきたのは、日本人の女の人だった。

肩ぐらいまでの黒髪に、切れ長の瞳と通った鼻。全体的にほっそりと線が細いけれど、施設の先生達とは違って、洗練された雰囲気を持った人だった。


「だって、僕が最初に出会ったんだよ?」

「だからって、外国人にいきなり話しかけられたらビックリしちゃうわ」


「ね?」と同意を求めるように首をかしげて笑うと、女の人はあたしと同じ目線になるように腰を落とした。


「あのね、ひなこちゃん?」


そう言ってあたしの頭を撫でると、頭に手を置いたまま優しく微笑む。


「大丈夫よ?まだ、施設に連絡はしてないわ」

「・・・え?」


信じられない言葉を耳にして、あたしは数回まばたきをした。

目から溢れていた涙がすっと引いていく。


「・・・・どうして?」


こんな事は初めてだった。

夢を見ているんじゃないかと思いつつ、夢であって欲しくないと強く願う。


そんなあたしを見つめながら、女の人はニコニコと微笑んだ。

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