夢みたもの
たぶん葵は、あたしがその話題に触れたくない事に気付いて、それ以上の会話も詮索もしてこなかった。

そんな気遣いが出来る葵に尊敬と感謝をしつつ、あたしは言われた事が気になって・・・、午後の授業の半分は上の空だった。



ユーリの演奏を聴きながら今日の事を思い返していたあたしは、演奏が終わると同時にそっと目を開けた。


「綺麗な曲だね?」


そう言ってユーリに笑いかけると、ユーリは嬉しそうに小さく微笑む。

それが嬉しくて、あたしはもう一度、ユーリに笑いかけた。



一緒に過ごすようになって2週間。

ユーリはやっと、ほんの少しだけだけれど、感情を見せてくれるようになった。

まだまだ僅かな変化だけれど、人形のようだったユーリが感情を見せて僅かに笑う姿を見るのは、他のどんな事より嬉しかった。



『そういえば、美野里さんが今週も来るのか気にしていた』



「美野里さんが?」


あたしが首をかしげると、ユーリは小さく頷いてノートに続きを書いてくれた。



『一緒にお菓子を作る約束をしたって。それで、来るなら材料を揃えておくと言っていた』



「わぁ、嬉しい!覚えてくれてたんだ!?」


ノートを覗き込んで声を上げると、ユーリはまた小さく笑った。



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