夢みたもの
『心因性失声症は、強いストレスを受けて起こる事が多い。
その心的原因を本人が克服するか、本人が声を出したいと強く望めば、発生練習で改善する事がある』


本もネットも同じような事が書かれていて、『本人を焦らせない・追い詰めない事』それが治る為に重要だと書かれていた。



だから、あたしがユーリに出来る事は、ただ側に居るだけ。

ユーリが少しでも元気になるように、治りたいと願ってくれるように、昔みたいに笑ってくれる事を願いながら、隣で見守るだけだった。


パタンと音を立てて本を閉じると、あたしは本の上に肘を立てて頬杖を突いた。

目を閉じると、グラウンドからは野球部のノックとホイッスルの音が聞こえてくる。



いつも通りの放課後。


それがあたしのささやかな望みだったのに、いつの間にか、その望みは叶わなくなった。



そう。

変わったのは、ユーリが現れたから。

今思えば・・・

音楽室から聞こえてくるピアノを聞いた時から、あたしの生活は変わり始めていた気がする。



後悔はしていない。

ユーリに、昔みたいに笑って欲しかった。



見当も付かない未来に、小さなため息を吐く。


その時。

ふいに肩を叩かれたあたしは、驚いて目を開けた。



< 218 / 633 >

この作品をシェア

pagetop