夢みたもの
「‥‥い いないよ」


少しの間、航平と見つめ合った状態だったあたしは、やっと搾り出すようにして答えた。


「あたしがそういう話苦手なの‥航平が一番よく知ってるじゃない!?」


「‥‥そうだね」


航平はそう言うと、寂しそうに笑った。


「でもね ひなこ?‥俺、最近思うんだ。ひなこがずっと怖がってる事と、誰かを好きになる事は、必ずしもイコールじゃないって‥」


「‥‥」


「ひなこはさ‥世の中の『男』って存在に拒否反応を示すけど、‥でも、おじさんや俺みたいに受け入れられる『男』も居るでしょ?」


「それは‥‥ずっと小さい頃から一緒に居るし‥信頼してるから‥‥」


呟くようにそう言いながら、背筋に寒さを感じたあたしは、両腕を抱きかかえて俯いた。



頭の奥で、耳鳴りのように耳障りな音が聞こえ始める。

それは、過去のあたしが鳴らす警笛。


思い出さなくて良い‥

それは、思い出す必要の無いもの‥‥



「‥‥ね 止めよう?こんな話つまんないよ?」


あたしは顔を上げると、ぎこちなく航平に笑いかけた。


「早く帰ろ?」


そう言って航平の脇をすり抜けると、あたしは早歩きで歩き始めた。



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