夢みたもの
「ひなこ」


航平に声をかけられても、あたしには振り向く余裕が無かった。


「ほら、置いてっちゃうよ!?」


出来るだけ明るく返して、あたしはさらに足を速める。

鳴り止まない警笛を少しでも抑える為に、頭をカラッポにして、ただ前だけを見て・・・



「ひなこ」


追いかけてきた航平は、あたしの一歩後ろを歩き出した。


「ひなこ、待って」

「・・・・・」

「話、終わってない」

「止めよう、って言ったもん」


あたしは振り向きもしないでそう言うと、さらに歩く速度を速めた。


「大体、今日の航平 何か変だよ!?いつもは、あたしの嫌がる話しないのに!」

「ひなこの為になる話だよ?」

「勝手に決めないで!」


あたしが航平を振り返るのと、航平があたしの手を掴んだのは、ほぼ同時だった。


「・・・ごめん・・」


叱られた子犬みたいに、航平は肩をすくめてすまなそうにそう言った。


「でも、ひなこに聞いて欲しい」

「聞きたくない!」


あたしは目をつぶって首を横に振った。



警笛がどんどん大きくなる。



『・・・ひなこ・・・』



「・・・・!?」


頭の中で声が響く。

幻聴だと分かっているのに、あたしはその声にハッとして目を開けた。



『戻っておいで ひなこ』



読経を読むような低い声。

それは、あたしの幸せを奪っていく声だった。



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