夢みたもの
「‥‥ねぇ ひなこはそれで良かったの?」


しばらく黙っていた葵は、やがてため息を吐いてあたしを見た。


「堤君と離れて‥‥それで後悔してない?」

「‥‥」

「良いわけないわよね?‥そんな情けない顔してるんだもの」


あたしの目元を指差して、葵は小さく苦笑した。


「昨日‥‥泣いたでしょ?」

「‥え?」

「ファンデで誤魔化しても無駄よ?目元が腫れてる」


慌てて目元を手で押さえると、葵は小さく笑ってあたしの肩に手を置いた。

そして、あたしを真っ直ぐ見据えると、静かに口を開いた。


「いぃ ひなこ?私はあなたの味方よ?‥‥だから、辛い時には頼りなさい」


「‥‥葵‥」


「先に言っておくけど‥、噂が落ち着くまで‥学校はひなこにとって、居心地の良い場所じゃないわ‥‥でも、負けちゃ駄目」

「‥‥」

「ひなこは、別に悪い事したわけじゃないでしょう?」

「‥‥」

「お互いの気持ちはどうであれ‥‥ひなこと堤君は、付き合ってたわけじゃない。皆が勝手に誤解していただけよ?‥改めてその事実が知れ渡ったからって、何だって言うのよ?」


「違う?」そう付け加えた葵は、あたしに笑いかけた。


「だから‥‥ほら、泣かないの‥!」


そう言ってあたしの手を引いてくれる葵に励まされて、あたしは教室へ向けて足を踏み出した。



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