夢みたもの
『皆が迷惑してる』

その言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。



茶室を後にして黙々と歩いていたあたしは、やがて、自分が図書室へ向かっている事に気付いて、小さく苦笑して立ち止まった。


図書室に居ても、もう窓ガラスを叩く人は居ない。

家に帰るまでの時間を潰す為に通っていた図書室は、今は何となく居づらかった。


ユーリと過ごした音楽室も、今は誰も居ない。


約1週間前。

美野里さんから話を聞いたのか、ユーリはあたしを心配して何通もメールを送ってくれた。

幸いにも、葵のおかげで、ユーリはいまだにドイツ語しか理解出来ないと思われているので、噂をされても大した事が無いようだった。


ただ、これ以上あたしと一緒に居るのを見られたら、ユーリにも迷惑をかける事になる。

喋れない事に気付いて、余計な詮索を始める生徒が居るかもしれない‥‥

そう思ったあたしは、校内では会えないと告げた。

会うのはSTRAUBでだけ。

あたしがそう告げた翌日から、ユーリは音楽室を使わなくなった。

今は、学校が終わるとSTRAUBでピアノを弾いている。


そして必然的に、あたしも放課後はSTRAUBで過ごすようになった。



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