夢みたもの
目の前には、少しはだけた航平の胸元。

余りにも近過ぎる距離に、あたしの鼓動はさらに大きくなる。


「‥ね、離れて‥?」


思わずうつむいたあたしは、距離を取ろうと両手で航平の胸の辺りを押したけれど、航平が動く気配はない。

ますます混乱するあたしに、頭上から航平の声が聞こえた。


「‥‥冗談‥だと思う?」


その言葉にハッとして顔を上げると、あたしの目の前には、さっきまでと違って冷静な航平の瞳があった。


何の迷いも無い、真っ直ぐな瞳。

その瞳に絡め取られるように、あたしは航平から目が離せなくなった。



「‥俺は、出会った時からずっと‥‥ひなこの事だけ見てきた」


航平はあたしを見つめたまま、静かに口を開く。


「心から笑って欲しくて‥、俺がひなこを守るんだって‥‥そうしていれば、ずっと一緒に居られると思ってた」

「‥‥」

「でも、年を重ねる毎‥、一緒に居るだけじゃ我慢出来なくて、いつの頃からか、ひなこを独占したくなってた‥‥」


最後の言葉を口にした時だけ、航平は一瞬、表情を歪めて視線を足元に動かした。



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