夢みたもの
少しはにかんだように笑うユーリ。

あたしは、驚きと嬉しさで一杯になりながら見つめ返した。


「‥‥そっか」


ユーリの口からそんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかった。


「そうだよね」


あたしの言葉に頷き返したユーリは、再びノートにペンを走らせる。


『声が出るようになって、少し自信が持てた。もう一度、やり直せるかもしれないと』

「もちろん!!やり直せるよ、当たり前じゃない!?」


あたしは、力強く何度も頷いた。


ユーリは大丈夫。

どんな事があっても負けたりしない。

きっと‥‥

近い内に喋れるようになる。


「大人になったユーリの声って‥‥何だか想像出来ないな」

『今は本来の声じゃないからね』

「だから、凄く楽しみにしてる」


きっと‥‥凄く格好良い。

見た目とピッタリ合って、本当に外国の貴公子みたいになる。

想像するだけで楽しくなった。



「喋れるようになったら‥‥最初に何の話をしたい?」


ユーリの様子を伺いながら、徐々に音階を上げていく。

まだ‥1オクターブがやっと。

焦る必要はない。

ゆっくり慣れていけば良い。


時間は一杯あるんだから‥‥


ピアノから指を離したあたしに、ユーリが苦笑して喉を指指した。


『まだまだ練習が必要だね』

「でも、確実に良くなってる。焦らなくて大丈夫だよ?」


あたしに頷き返したユーリは、ノートの新しいページにペンを走らせる。



『ひなこの名前を呼びたい』

「え?」

『喋れるようになったら‥‥、真っ先にひなこの名前を呼びたい』

「‥‥」


ドキリと鼓動が早くなる。

そんなあたしに、ユーリは惚れ惚れするような笑顔を見せた。



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