夢みたもの
「話してる最中に逃げるなんてヒドイじゃん?」


「‥‥!!」


その声にハッとして目を開けた。



あたしの腕を掴んでいるのは、目つきの鋭い男。

少し息を弾ませながら、あたしを見てニヤリと笑う。


「先輩が誘ってるんだから、誘いは大人しく受けないとダメだよ」


「‥‥お願い、‥放して‥」


気が遠くなりそうになる。


絞り出すようにして、あたしはやっとそう言った。


掴まれた腕が、自分の腕じゃないみたいだ。

掴まれた部分から、じわじわ汚染が拡がるように‥‥

あたしの体が汚れていく。



『お前は私のものだ。もう2度と‥手放しはしない』


補導されて戻って来る度

あたしが、施設の外を通る親子を羨ましく眺める度に

‥‥それは訪れた。


あたしに伸ばされた大きな手。

大きくて

大きくて‥‥

あたしを汚れた世界に引きずり込んだ。



‥‥そうだ。

あたしはもう‥‥こんなに汚れてる。



改めて思い知った事実に、涙が溢れた。


「そんなに怯えなくてもいいじゃん?楽しく遊ぼうって言ってるんだからさぁ?」


あたしを覗き込んで笑う男に、あの人の顔が重なった。


「ねぇ‥、ひなこちゃん?」

『ひなこ』



「‥‥ぃやっ‥‥!!」


見たくない。

思い出したくない。



溢れる涙が頬にこぼれ落ちた瞬間。

あたしは思い切り男を突き飛ばした。



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