夢みたもの
「何してる?私と帰るんだ」

「‥‥」

「お前の家はあそこだけだよ」


「‥は‥放して‥」


掴まれた腕が痛い。

向けられる視線は、相変わらず背筋が凍る程怖かった。


「どうした?」


園長は空いている腕を伸ばすと、幼いあたしの頭を撫でる。


「分かってる筈だよ?ひなこが今居る場所は、ずっと長くは居られない」

「‥‥」

「私と築いた愛情を‥‥まさか忘れてしまった訳じゃないだろう?」

「‥‥」

「お前を愛してるのは、私だけだよ」



愛情。

それがどういうものなのかなんて、分からない。


でも‥


施設で得たものが愛情だとするならば‥‥

あたしはもう‥愛情なんていらない。


「‥‥やだ‥」

「ひなこ?」

「もぅ やだ!‥‥放して!!」


静かな住宅街に、幼いあたしの声が響いた。



「もう やめてよっ!」


ユーリが声を上げて園長の腕に飛び付いた。


「放せっ!」

「‥‥」

「ひなこを泣かせるなんて許さない!」

「‥‥ユーリ‥」


ユーリが声を荒げるのを見た事がなかった。

髪を振り乱し顔を歪めたユーリは、あたしから園長の腕を放そうと力を込める。


「放せよっ!!」


でも、子供の力が大人に適う筈はなく‥‥

園長に振り払われたユーリは、バランスを崩して地面に転がった。


「ユーリ‥!!」

「大丈夫かい?綺麗な顔が傷付いたら大変だ」

「‥‥」

「でもまぁ‥分かっただろう?君にひなこは守れない」


「さぁ行こう」そう付け加えて小さく笑うと、園長は幼いあたしの手を強く引いた。


「帰るよ、ひなこ」


「‥やだ、放して!?ユーリ!」


園長の力にずるずると引っ張られる。


もう駄目だ。


そう思った時。


一人の人物が幼いあたしの視界に入った。



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