夢みたもの
「無意識なんだから‥ホントたちが悪いよ」


髪を軽く掻き上げたその手を額に置いたまま、航平は苦笑してあたしを見た。



「俺だって‥完璧じゃないよ」

「‥え?」

「ひなこが関わると、自制出来なくなるの‥自分で分かってるしね」

「‥‥」

「だけど‥それで良いんだ」


額に置いた手をあたしに伸ばすと、航平はあたしの頭を撫でる。


「たった一つでも、自分にとって譲れないものがあるのは、それだけで幸せな事だって知ってるから」

「‥航平‥」

「ひなこに振り回されるなら‥‥それはそれで良いよ」



目元を優しく和ませた航平。



その優しさに

その温かさに

あたしの心はいつも癒される。



「ありがと」

「あれ‥?最近、ホント素直だね」


そう言って笑った航平。


でも、次の瞬間。

ハッとしたように目を見開いて、あたしの背後を見つめた。


「航平?」


その呼びかけには応えず、航平はあたしの脇をすり抜けて、ピアノの周りに散らばった楽譜の辺りに腰を下ろす。

そして、あたしの名前を小さく呼んだ。



「ひなこ」


「どうかしたの?」


「見付けた」

「‥‥え?」

「見付けたよ」



そう言って振り返った航平。

その手にあったのは‥‥


角がボロボロの厚い焦げ茶色の日記だった。



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