夢みたもの
「ひなこちゃんに対しても、叶さんのご家族に対しても‥決して許される事じゃない。そう言った時‥‥恐ろしい形相で殴られたのを今でも覚えてる」


その時の事を思い出したように、佐知先生は左の口元を指で押さえた。


「あの恐怖を‥幼いひなこちゃんがたった一人で受けとめていたなんて‥‥」

「‥‥」


思いにふける佐知先生。

思わずうつむいたあたしは、膝の上の手をぎゅっと握り締めた。



大丈夫。

もう‥大丈夫。


そう何度も頭の中で繰り返す。

そうしなければ、恐怖で体が震えだしそうだった。



「きっと‥どうして自分なんだろう?って‥思ってたわよね?」

「‥え!?」


佐知先生の言葉に、あたしはハッと顔を上げる。

そんなあたしに、佐知先生は悲哀のこもった目を向けた。


「ひなこちゃんが園に預けられた数ヶ月前‥‥園長先生の奥様が出産時に亡くなったらしいの。お腹の赤ちゃんは死産だったそうよ。だからきっと‥、そのすぐ後に現れたひなこちゃんを、生まれてくる筈だった自分の子供に重ね合わせたのかもしれないわ」

「‥‥」

「もっとも‥これは推測。私が雇われる前の話だし、園長先生はもちろん、他の先生も教えてくれなかったから」

「‥‥」

「ただ‥それ以外の理由が見付からないの。あの頃‥乳飲み子がここに預けられるなんて、初めての事だったらしいし」


「‥そう‥‥なんですか‥」


それ以上の言葉が返せなかった。



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