夢みたもの
「でも‥元々、彼がこの学校で学ぶ事なんて何も無かったのよ」

「‥え?」

「いくら休学していたとはいえ、彼は私達より2学年上なのよ?それに、編入試験の点数は相当なものだったって聞いたわ」


葵はそう言って肩をすくめると、あたしを見て苦笑する。


「何て顔してるのよ、ひなこ」

「だって‥‥」

「彼は、目的を持ってこの学校に来たの。そして、その目的を達成した。だから帰る‥‥それだけの事よ」

「‥‥」

「言ってる意味、分かるわよね?」

「‥‥葵‥」


言葉が見つからなかった。



ユーリの目的。

それは‥‥

もう一度ピアノに向かう事?

声が出るようになる事?



今更ながら‥あたしはユーリをよく知らない事に気付かされる。

いつも支えられて、助けて貰うばかり。

あたしは何か、ユーリの役に立っていた‥‥?



「あたし‥何も返せてない」

「‥‥」

「支えて貰うばっかりで‥‥何の力にもなれてないよ」

「そんな事ないと思うわよ?」


葵はそう言って小さく笑った。


「ひなこの存在が、彼を変えたの」

「でも‥」

「大丈夫。彼の力になってたって事は、私が保証してあげる」

「‥うん‥」


それ以上言葉が見付からなくて、あたしが口を閉ざした時。

隣に座った鞠子が、もう限界だというように身を乗り出した。




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