夢みたもの
「ひなこのおかげで、僕は前に進む事が出来た」

「‥‥」

「姉が‥杏奈が死んだ時、僕の心は死にかけた。‥‥死んでも良いって思ってたんだ。声が出なくなったのも‥‥これは罰なんだって」

「罰‥?」


ユーリは小さく頷くと、深いため息を吐いて口を開いた。



「杏奈は、両親が死んでから精神的に病んでいた。残された家族2人きり‥‥だから僕は、杏奈を支えようとした。家に引きこもった杏奈の為に学校を休んで、ピアノを聞くと母を思い出して泣き出す杏奈の為に、ピアノに鍵をかける事も‥‥厭わなかった」

「‥‥」

「でも、それは杏奈にとって‥‥逆に重荷だったんだと思う」

「重荷?」

「杏奈はあの時‥‥」


そう言いかけたユーリは、ハッとしたように口を閉ざした。

そして、その時の事を思い出したのか、眉根を寄せて目を閉じる。

その様子が痛々しくて、あたしは慌てて首を横に振った。



「あの‥‥いいよ。辛い事なら思い出さなくて良いし、話さなくても‥」

「‥‥」

「ね、ユーリ‥?」


あたしがユーリの肩に手を置くと、ユーリはハッとしたように目を開けてあたしを見る。

そして、小さく息を吐いたユーリは、弱々しく笑った。



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