夢みたもの
「そんな事言わないで‥!!」

「‥ひなこ‥」


ユーリの戸惑う声が耳元で聞こえる。

でもあたしは、ユーリの首に回した腕を放そうとしなかった。



今までユーリが抱えてきた事を思うと、胸が痛くて息苦しい。

この気持ちをどうしたら良いのか分からなくて‥‥

あたしは、ただ‥ユーリを抱き締める事しか出来なかった。



「ひなこ」

「‥‥」

「ありがとう」


ユーリは小さく呟くと、あたしの背中に腕を伸ばす。

そして、ユーリはあたしをそっと抱き締めた。



「ありがとう、ひなこ」

「‥‥」

「ひなこのおかげだよ」

「‥え?」

「あの時‥‥ひなこにトラックが迫ってきていた時。僕は今度こそ助ける‥って思ったんだ。もう、杏奈の二の舞は嫌だった‥‥」



『今度こそ‥』

その言葉を前に聞いた。


ユーリが目を覚ましてすぐの頃。

あたしの名前を呼んで、そう呟いた事がある。

あれは‥‥そういう事だったの‥?


「杏奈を失った事は‥きっと一生、僕が背負っていかなくちゃいけない事なんだ。でも、僕はひなこを失わずに済んだ。それは‥杏奈がもう一度、僕にチャンスを与えてくれてる気がするんだ」

「‥‥」

「もう一度‥‥僕が前に進む為の勇気をね」

「ユーリ‥」


あたしは涙を拭ってユーリから離れた。

目の前のユーリが穏やかに微笑む。

再会した時と違う‥‥本当のユーリの笑顔。



「だから、帰るの‥?」

「うん」

「‥‥」

「僕はもっと大きくなる。その為にも‥‥戻らないと」


ユーリはそう言ってあたしに笑いかけた。




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