夢みたもの
「ひなこちゃんにはお礼を言わないとね」

「お礼?」

「最初に会った時『悠里の側に居て欲しい』ってお願いしたでしょ?本当にありがとう。ひなこちゃんのおかげで、悠里はピアノに向かうようになって、声も取り戻した」

「私が理由じゃ‥‥」


そう言いかけたあたしに、崇さんはゆっくり首を横に振った。


「ひなこちゃんのおかげだよ」

「‥‥」

「悠里の心を開いてくれて‥‥ありがとう」

「‥‥」


その言葉に胸が詰まる。

涙が出そうになったあたしは、何度も首を横に振った。



ユーリと再会して、あたしも変わる事が出来た。

過去を受け入れて、これから訪れる未来の明るさを知った。

お礼を言わなくちゃいけないのは、あたしの方だ。



「あの‥崇さんもウィーンに戻るんですか‥?」

「うん‥元々、僕の講師の仕事が半年だったから、悠里がそれに合わせて付いてきた感じだったんだ」

「そう‥ですか」

「もっと一緒に居られたら良かったんだけどね」

「‥‥」

「でも‥」


そう言いかけた崇さんは、あたしと、あたしの隣に立っている航平を交互に見てニッコリ笑う。


「ひなこちゃんの事は、きっと彼が支えてくれる。だから‥大丈夫だね?」

「任せて下さい」

「航平‥」


振り仰いだあたしに、航平はニッコリ笑って頷いた。


「叶さんの分も‥しっかり支えていきます」

「ありがとう。‥‥これで、心置きなく戻れるよ」


崇さんは穏やかに笑ってそう言った。



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