夢みたもの
前方から小走りにやって来たのは、少し慌てた様子の美野里さんだった。

あたしの声に顔を上げると、嬉しそうにニッコリ笑う。


「あぁ‥ひなこちゃん、会えて良かった」

「良かったじゃないです!!」

「え?」

「遅いですよ!!2人共さっき‥‥」


声を荒げたあたしの肩に手を置くと、美野里さんは小さく笑った。


「うん‥知ってる」

「‥‥」

「ちゃんと挨拶しておきたかったの。だから、ここで会えて良かった」

「‥え?」


「ひなこちゃん。私も‥ウィーンに行くわ」


美野里さんの言葉を理解するのに、少しだけ時間がかかった。

美野里さんが‥‥ウィーンに‥?


「え‥えぇっ!?」

「あら‥良い反応」


口元を押さえてクスクス笑うと、美野里さんは小さく息を吐いてあたしを見た。


「もう‥待つのは止める事にしたわ」

「‥‥」

「待つだけじゃ、振り向いてくれないもの。‥‥前に『崇さんの心の中に存在する女性は消えない』って言ったでしょ?でも‥そう思う事が既に負けてるの。恋は‥自分の手で掴み取ってなんぼのものでしょ!?」

「でも、仕事は?」

「フリーで働いてるからどうとでもなるわよ?必要があれば日本に帰ってくるし。少し向こうで勉強してくるつもりで行って来るわ」

「え‥でもこの事‥崇さんは?」

「もちろん、知らないわ」


美野里さんは楽しそうに笑う。


「だって‥反対されたら嫌だもの」

「‥‥」

「私が求める人は1人だけなの。だから‥振り向かせてみせる」



キラキラ輝く。

笑顔がこぼれる。

強い想いを胸に突き進んでいく姿。

美野里さんの周りがキラキラ輝いて見えた。


「連絡するわ。ひなこちゃんも元気で頑張るのよ」


美野里さんはそう言うと、あたしに顔を近付けてニッコリ笑った。


「彼を手放しちゃ駄目。幸せになるのよ?」

「はい」

「あ、いい返事」


あたしの頭を撫でると、美野里さんは満面の笑みで笑う。


「じゃぁ、行ってきます!!」


幸せをつかむ為。

前を向いて突き進む。


そして、美野里さんも旅立って行った。

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