あなたに呪いを差し上げましょう
「アンジー。私は、あなたに伝えていなかったことがいくつもある、ずるい男だけれど。聞いてほしいことがあるんだ」

「ずるいとは思いませんわ。あなたさまがおっしゃらないのですもの、なにかお話にならない理由がおありだったのでしょう」

「それは私を、信じてくれるということかな」

「ひとは、信じたいものだけを信じるものでしょう。ですからあなたさまは、いまも英雄でいらっしゃる。わたくしは、この数ヶ月と、わたくし自身を信じております」


ひとは、信じたものにしか守られえない。


いくら丈夫な壁だと言っても、信じていないひとにとってそれはないも同然の壁で、不安はおさまらないように。


「きっといつか、わたくしがそれを聞いても、あなたさまに根掘り葉掘り尋ねなくなったときに教えてくださいませ」

「それは、いまということで構わない?」

「つれないことをおっしゃるのですね」

「なにを言うんだか。つれないのはあなただろう」

「まあ。いやですわ、あなたさまがつられてくださらないのでしょう」


ひどいなあ、と詰めた息を吐き出した、かけはなれてうつくしいひとが、どこまでもやさしく名前を呼んだ。


「アンジー。アンジェリカ。顔を上げてくれないかな」


聞いてほしいことがあるんだ、とお願いの体を取っておきながら、こちらの了承を聞かずに言い募る少しの強引さが、わたくしはきらいではないのだった。

たぶんそれは、こちらがないがしろにされているような感じがないからなのでしょう。


……いやだわ。こういうときに、わたくしとの身分差と、育ってきた環境の違いを思い知らされるのよ。

手慣れた言葉選びだった。


「……ずるいお方」

「あなたにだけだよ」


アンジー、と再度の呼びかけにちいさく顔を上げると、のぞき込まれてそっと目が合って、とけるような微笑みが落とされた。
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