おうちかいだん
何……これ。


何重にもダブって見える、薄い影がゆらゆらと。


どこを見ても、照明と影の間にものは見えないのに。


怖くて階段を下りられない。


下りなきゃ、傷口を洗えないのに。


「どうして今日に限ってこんなことが起こるのよ……」


こうなってしまった運命を呪いながら、揺れる影をなぞるように目で追う。


うん?


なに、あれ。


私の目に入った、影の上部の壁にある物。


金属の……リング?


ここから見てもわかるくらいに錆びていて、色が壁と同化しているのに加えて、普段はそんな場所を見ないから今まで気付きもしなかった。


直径5cmくらいの金属のリングが、壁に打ち付けられるようにしてそこにあったのだ。


「……あそこから伸びてる?」


どうやら影は、そのリングを支点に揺れているように見える。


どうしよう……見ただけで気味が悪いと感じるのに、階段を下りるとなると、確実にこの影の中を通ってしまうよ。


「大丈夫……きっと、今までもあったけど、私が気付いてなかっただけだよ。なんで揺れてるかはわからないけど……」


そう自分に言い聞かせないと、この階段を下りられそうになかった。


早く傷口を洗い流したいのに。
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