おうちかいだん
見なければいいのに、少し気になってしまって。


顔を上げて鏡を見ると……鏡の中の私も私を見ていた。


「ひっ!」


と、小さな声を出してしまったけど、鏡なんだから私と同じ動きをするのは当然じゃない。


一体何を驚いているんだろう。


怖い怖いと思いすぎて、なんでもないことまで怖がってしまうやつだろうな。


再び俯いて、メイク道具に手を伸ばした時だった。








「これも試してみなさい。薄い口紅もいいけど、血のように真っ赤な口紅は、あなたを変えるわよ」









そう言って、鏡の中から出てきた手が、私の手首を掴んで赤い口紅を掴ませたのだ。


「い、いやあああああっ!」


悲鳴を上げて振りほどくと、その手は鏡の中に引っ込んで。


私はメイク道具を抱えて逃げるように部屋から飛び出した。







「ふふ。明日また、ここで待ってるわ」






背後からそんな声が聞こえても、私は振り返ることもせずに自分の部屋へと走った。


もう、怖い目には遭いたくない、私はもう、何にも怖がりたくないんだと心の中で呟いて。


絶対に行かないんだからと、部屋のテーブルの上にメイク道具を置いた。
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