おうちかいだん
「藤井さんが初めてだよ? それに、怖い話をしてくれって言ったのはそっちじゃないか。この時間が特別なんでしょ? じゃあ、もっと特別なものにしようよ」


そう言って、ゆっくりと顔を近付けてくる。


私はそれに合わせるように、稲葉くんの頬に手を添えて、親指の腹で軽く撫でた。


「綺麗な肌。まるで女の子みたい。稲葉くんはファンが多いのに、こんなことをして大丈夫なの?」


お互いの吐息を感じるほど近くに顔を寄せて、もう少し近付けば唇が触れてしまいそう。


「僕は誰のものでもないよ。だけど不思議だね。藤井さんのものにはなりたいかなって、今は思ってる」


「稲葉くん……じゃあお礼に、私からも一つ話をしてあげるね」


この、今にも触れてしまいそうな距離で、それを維持したままでいられるのは凄いと思う。


ここまで来たら、欲望に身を任せてキスしてくるかと思ったのに。


「話? それよりも、喋れないように藤井さんの口を塞ぎたいんだけど」


やっぱり、欲望に負けてしまいそうだったのね。


「すぐに終わるから。あるところに、女の子みたいに綺麗な顔の男の子がいたの。その男の子を好きな子は多くて、中には少し危ない人もいたんだ」
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