エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「寝不足だって言ってたっけ」
小さく呟き、なにか掛けるものがないか部屋を見回す。ソファの端にブランケットがあったので、肩から体全体に巻き付けるように掛けてあげた。
文庫本をそうっと彼の手から抜き取っても、まったく起きる気配がない。
「そうだ。寝ているなら……」
私は静かにソファに乗り、彼の耳元に唇を寄せた。
「モツを噛んだ瞬間、ショウガの効いた甘辛い汁がじゅわっ。ホクホクのゴボウに、シャキシャキレンコン、ほんのり甘い人参……ああ、なんて美味しいんだろう。俺の負けだ」
暗示をかけるように囁き、これでよし、とソファを下りた。今頃、私のとりモツ煮の前にひれ伏す夢を見ていることだろう。しめしめ。
ほくそ笑んでいると部屋に漂う煮汁の香りが濃くなってきたのを感じ、そろそろ鍋返しをしようかとキッチンに戻る。
片手鍋を小気味よく返すと、底の方にあった具材には美しい照りが生まれていて、大成功の予感しかしなかった。