エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

「料理で人の気持ちを動かせるんだろう? だったら、ここに住んで俺のために毎日料理をして、俺を落としてみろよ。したいんだろ? 結婚」

 司波さんは挑発的なセリフを吐き、私を見下ろした。

 偉そうな態度に腹が立つ反面、『お前の料理はうまい』と言われたことで、絆されている自分がいた。

 それにさっきこの部屋を出ようとした時、微かな名残惜しさが胸をちくっと刺激した。

 改めて考えてみると、私は彼との口げんかさえ楽しんでいたんではないだろうか。たとえばお見合い相手が司波さんじゃなく、もっと優しく紳士的な人だったなら、私はここまで素の自分をさらけ出せてはいなかった。

 猫をかぶって、世間一般が抱いているイメージ通りのしとやかな女性を演じたに違いない。

 でも、そんなハリボテの自分を好きになってもらったって、意味がない。本当の私を受け入れて、愛してくれる人でなければ、結婚なんてできない。

 だからといって、私と司波さんの間に愛が生まれるなんて簡単には思えないけれど……私は単純に、彼にもっとちゃんと『美味しい』って言わせたい。

 料理が人の心に与える作用を、身をもって感じて欲しい。

< 31 / 233 >

この作品をシェア

pagetop