エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 私相手なら文句を言ったのだろうが、紗耶香ちゃんに対しては普通にお礼を言い、スーツのジャケットを脱いで大人しくエプロンをつけた。

 なにを着てもサマになるスタイルのはずなのに、ビニール製の使い捨てエプロンをつけた姿はちょいダサで、思わず口元ににんまり笑みが浮かぶ。

 しかし私の視線に気づいた司波さんがじろっと睨みを利かせてきたので、パッと視線を逸らしてごまかし、何食わぬ顔で講師の顔に戻るのだった。

 調理開始から三十分も過ぎると、すでに数回この教室に通っている生徒の男性たちは、それなりに手慣れていて作業は順調だった。

 今回のメニューのひとつである、鶏のささみを揚げる工程に入っているキッチンもある。

 衣に使っているのは市販のチーズクラッカーを砕いたものなので、普通の揚げ物より香ばしさがいっそう強く、換気扇を回していても、教室内にはいいにおいが漂う。

 揚げ初めは低い音でボコボコ、揚がってくるとピチピチ高い音を立てる油の音も耳に心地いい。

 料理は五感で楽しむものなのだと、司波さんも気づいてくれている頃かな?

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