エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 未開の地に足を踏み入れる緊張と期待に包まれながら、夜の街を司波さんと並んで一緒に歩く。

 彼はずっと無表情で無言だったが、私に歩幅を合わせてゆっくり足を進めてくれ、歩道のない路地に差し掛かるとさりげなく車道側に移動した。

「意外と優しいんですね」

 微笑んで彼の横顔を見上げると、司波さんは怪訝そうに眉根を中央に寄せる。

「お前の思考が読めない。今このタイミングでどうしてそうなった」
「無意識にやってるんだとしたら、それはそれで紳士的で素敵です」
「だから一体なんの話を――」

 彼がそう言いかけたとき、かなり運転の荒いタクシーが背後から私たちを追い越した。

 狭い道なので接触すれすれの距離だったが、司波さんがとっさに私の肩を抱いて道の端に避けたおかげで、私たちは無事だった。

「大丈夫か?」
「は、はい」

 彼はすぐに手を離してつかず離れずだったもとの距離感に戻ったが、私の心臓はいつまでもバクバク鳴っていた。

 危うく事故になりそうだったからではない。司波さんの大きな手に肩を包まれ密着した一瞬で急に彼の体温や香りを近くに感じ、男性として意識してしまったからだ。

 いつもは悪態をついてばかりなのに、危険が迫ったときにはあんな風に強引に守ってくれるって、ギャップありすぎで反則でしょう……。

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