【完】黒薔薇の渇愛
ごくりと唾を飲む喉が上下する。
緊張を見透かしてる桜木は、立ち向かっておいてひとりの男にすら抵抗できない私を見て滑稽に笑った。
「やだなー、ほんと。
……無力なくせに立ち向かうところがツボ。
天音ちゃんに愛される男は幸せになれると思うよ」
「……っ」
嘘つき。
そんなこと、思ってもなければどうでもいいくせに。
「君が愛してくれるなら、俺も愛してみようかな……なんて。
そんなの嘘、俺は誰も愛さないし愛せないよ。」
「……」
「だって、そんな心、持ってないからね」
「……」
「だから、いまいち君の行動が掴めなくて困ってんの。
教えてくれる?俺に天音ちゃんのこと。
もっといっぱい」
これ以上は……だめ。
踏み込んでこないで。
怖い。
桜木はなに考えてるかわからない。
知らないものは知りたくなるはずなのに。
この男のことだけは深く知ってはいけないのだと
本能がそう言っている。