追放された聖女はもふもふとスローライフを楽しみたい!~私が真の聖女だったようですがもう知りません!~


ああ、エマだ。エマが目の前にいる……

銀狐の姿で巨大な寝台に寝そべるシリルは、隣で早くも眠りに落ちたエマを見つめる。我慢できず、顔をペロペロ舐めてしまったのは内緒だ。

サラサラとまっすぐな髪に、年齢の割に小柄で折れそうな細い体。

前世より年齢は若くなっているけれど、その他は何も変わらない聖女。ステータスまで、前世とほとんど一緒だ。

共に暮らしたのは一年程度だが、彼女はシリルにとって何物にも代えられない大切な大切な存在だった。

百年前に欠けてしまった愛する女性。

ずっと苦しくて、一生この気持ちは続いていくのだろうと覚悟していた。

それが、彼女を助けられなかった自分への罰だと思っていたのだ。

しかし、心に空いていた大きな穴は、エマに再会したことで再び満たされていく。

「今度は、絶対に彼女を失ったりしない。守りきってみせる」

シリルたち獣人系の魔族は他に類を見ないほど愛情深いと言われている。八百年生きた父も、妻は生涯ただ一人しか持たなかった。

エマに再び会えた。そのことが、泣きそうになるほど嬉しい。

こっそり人型に戻ったシリルは、両腕を伸ばし温かいエマの体を抱きしめる。

そのまま一晩過ごし、朝になってエマが目を覚ました。

「おはようございます、シリル。あら、人型に戻ったんですね」

朝一番に間近で異性の顔をみても、淡々とした受け答え。うん、エマらしい。

彼女は普段から冷静で、あまり感情を態度に出さない。

我慢しているとかではなく、単に心の内を表現しないタイプなのだろう。頭の中では色々考えているはずだ。
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