追放された聖女はもふもふとスローライフを楽しみたい!~私が真の聖女だったようですがもう知りません!~
「ひっ……!」

思わず悲鳴を上げそうになるのを、必死でこらえる。

「スミレ、駄目じゃないか。一人で外に出たりしては危険だ」

「大丈夫よ、ただの散歩ですもの」

気づかれるわけにはいかない、足を一歩一歩動かし、後ろ向きに庭へ近づいていく。

けれど、王太子が動く方が早かった。

「衛兵、スミレを部屋まで送り届けろ」

「ちょっと、私は散歩がしたいのよ! 勝手に部屋に連れ戻さないでくれる?」

「なら、後日、一緒に庭へ出よう」

「そうじゃなくて!」

日記のこともあり、王太子のことも疑ってしまう。彼は、キーランの聖女はスミレだけだと言った。たしかに、今はそうだ。

しかし、過去には別の聖女、そして勇者も存在していた。彼らの前にも、誰かが呼ばれていたのかもしれない。

――でも、今はいない。全員、いなくなってしまった。

王太子は嘘は言っていないけれど、本当のことも言っていない。この城の人たちは、何もスミレに教えてくれない。

彼らに対する信頼が、ぐらりと揺らいだ。
< 38 / 211 >

この作品をシェア

pagetop