追放された聖女はもふもふとスローライフを楽しみたい!~私が真の聖女だったようですがもう知りません!~


ふと懐かしい、誰かに優しく包み込まれたような気配を感じ、執務中だった魔王シリルは顔を上げた。

父譲りの流れるような銀髪に端正な顔は青年のもので、母親に似た繊細な美しさが周囲の目を引く。

魔族の寿命は人間よりかなり長く、シリルも百歳と十数年の年月を生きていた。

かつてのフレディオも八百歳を優に超えている。

「今の気配、エマ……?」

温かくて優しくて、苦おしくて泣きたいほど愛おしい大切な人の痕跡。

――百年経っても忘れない、忘れられるわけがない。

もう二度と会えないのだと理解しながらも、ずっと彼女のことを想い続けていた。

自らの命と引き換えにモフィーニアを守ってくれた聖女は、今までで唯一シリルが愛した女性だったのだ。

「いや、まさかね。エマは死んだんだ」

しかし、続けざまに同じ魔法の気配が放たれる。何度も、何度も……

「これは、一体」

魔族は魔法の気配に敏感だ。魔王クラスになれば、誰が魔法を使ったか、どこから魔法が使われたかなども判別できる。

そして今、遠くの――キーラン国の方角で、懐かし光魔法や風魔法の気配がした。

エマの魔法を忘れるわけがない。シリル自身が彼女に教え、いつも一番近くでそれを見ていたのだから。
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