翠玉の監察医 アイネクライネ
必ず無事に帰ってくると約束したものの、蘭は死ぬ覚悟を常に持っていた。星夜がこの世界で生きていけるのならば、自分など犠牲になっても構わない。星夜を守って死ねるのならば、それは蘭にとって本望なのだ。

ブローチや蘭の履いているスカートと同じ緑色の手帳に、美しい文字が書かれていく。蘭は思い出を振り返りながら、ペンを手帳に走らせていく。その横顔ですら、見惚れてしまうほどに美しい。


「この世界に生まれてよかったのか、そう幼い頃から何度も感じてしまっていました。周りにいる人と私は全く別の世界で生きていて、そんな私を誰も温かく迎えてくれることはありませんでした。

でも、皆さんは違いました。私を「仲間だ」と言ってくれました。共に亡くなった方の声を聞き、ご遺族の無念を晴らしてきました。皆さんと共に過ごせたこと、皆さんと出逢えたこと、私は感謝を忘れません。

皆さんがこの手紙を読む時、きっと私は皆さんの隣にはいられないのだと思います。約束を守れず、申し訳ありません。できることならば、私も生きて皆さんにもう一度会いたかった。
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