獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 少女は破顔して、私の腰あたりにガバッと抱き付いてきた。
「あっ!」
 勢い余った少女はうっかり風船を放してしまったようで、ガスが入った風船はあっという間に空を泳ぎだす。
「ママに買ってもらった風船がぁ……」
「大丈夫だよ、待っていて!」
 私は考えるよりも先、悲しそうに宙を見上げる少女に告げ、風船を追って走っていた。円形噴水の縁を踏み切り台にして、噴水の上空を浮遊する風船目がけて跳躍した。
 目測通り、伸ばした指先が風船の持ち手を掠める。
 ……よしっ、もうちょっと!
 ところがいざ握り込もうとしたところで、持ち手の紐はふわりと風にあおられて、無情にも流れていってしまう。
 え、えぇえぇっ!? そりゃないよーっっ!!
 私の手は虚しく空を掻き、さらに流れていく風船をなんとか掴もうと身を捩ったことで、大きくバランスを崩してしまう。体勢を崩した私はなす術なく噴水に向かって垂直落下した。
 ――バッチャーンッ!
 もちろんバランスの立て直しは間に合わず、着水は尻から。私はあえなく頭から大量の水しぶきを被り、濡れネズミになった。
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