獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 現実的に考えて、ここから配役のスライドというのはかなり無理がある。当日の配役変更というのは、相当の舞台経験と度胸がなければ熟せないのだ。かつての経験で、私はそれを身に沁みて知っていた。
 ……だけど、私ならばできる。前世の私は芸の世界に生き、舞台の中央であらゆる役を演じてきた。私にとって、演じることは息を吸うように自然なこと。
 骨の髄まで染み込んだ舞台経験と勘は、今でも寸分も色あせてはいないのだ。
「ドミニクさん、オリバーさん、今の話を聞かせていただきました。主演俳優の方になにかトラブルがあったようですね」
「あなた様はマクシミリアン陛下のお付きの……!」
 ふたりの前に進み出て声を掛けるとドミニクさんは青褪めた顔でビクリと肩を跳ねさせた。彼は一度グッと口を引き結び、覚悟を決めたように唇を開く。
「僕はマクシミリアン陛下の近習のヴィヴィアンと申します。お願いがあります! どうか僕に、主演を任せてはいただけないでしょうか!?」
 ドミニクさんが声を発するよりも先に、私はその目を真っ直ぐに見据えて訴えた。
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